イギリスで開催されるウイスキー品評会「ワールド・ウイスキー・アワード」で3年連続の世界最高賞受賞※1をはじめ、国内外で高い評価を得ている「イチローズモルト」。その製造会社である株式会社ベンチャーウイスキーは、第1蒸留所と2019年10月に新設した第2蒸留所の両方に、旭有機材グループで水処理事業を担うドリコ株式会社の排水処理設備を導入しています。そこで代表取締役社長の肥土伊知郎さんに、旭有機材の排水処理設備が、世界で愛される銘酒造りにどう役立っているのかを語っていただきました。
※1 2020年3月時点。2017年に「シングルカスク シングルモルト部門」、2018~2019年は「ブレンデッドウイスキー リミテッドリリース部門」
自然と共生するウイスキー造りに排水処理は欠かせない
ウイスキーの製造には、糖化や発酵、蒸留などの工程があり、各工程で廃液や洗浄時の汚水などの排水が出ます。自然由来の原料を使用して製造するウイスキーですが、実は排水のBOD(生物化学的酸素要求量※2)は高いんです。一方で、秩父市の排水基準は、全国でもトップクラスの厳しさ。蒸留所から出る排水を浄化して、BODを基準値以下にしなければ川に流すことはできず、ウイスキーを製造することもできません。ウイスキーは、自然と共生しながら、自然の恵みを加工して造るものです。排水処理自体はウイスキーの品質に直接影響することではありませんが、ウイスキー造りには欠かせないと考えています。
弊社が、排水処理設備の導入を検討していたのは2017年のこと。当時、イチローズモルトの人気の高まりに応じて、製造量を増やしていました。それに伴い排水量も増えたのですが、従来の第1蒸留所の設備では、その量に対応できなくなっていました。そこで、より多くの排水処理が可能な設備を入れるため、ドリコを含めて5社の水処理会社に見積もりを依頼しました。弊社が重視したのは浄化能力。ドリコ以外の4社の中には、格段に安い会社もありましたが、基準をクリアできなければ意味がありません。浄化能力と費用のバランスを考えた結果、ドリコの排水処理設備を導入することに決めました。
※2 Biochemical Oxygen Demandの略。微生物が水の汚れを分解するときに使う酸素の量を表し、数値が高いほど水質が悪い
同業他社での導入実績に基づく提案に説得力があった
第1蒸留所の排水処理設備導入を検討していたのと同時期に、第2蒸留所の建設計画も進んでいました。第2蒸留所が稼働すると、その排水量は第1蒸留所の5倍に増える見込みで、それだけ大きな排水処理設備が必要になります。さらに、第2蒸留所稼働当初は、熟成のための貯蔵庫の空きが少なく1日に1回の仕込みしかできませんでしたが、新たな貯蔵庫が完成すると1日に3仕込みまで可能になります。排水処理設備の躯体はコンクリート製のため、排水量が増えたからといって、後から簡単に増設できませんし、費用も大きくかかります。
ドリコの設備は、総合酒造メーカーでも導入されており、その会社はウイスキーも製造しています。そのためドリコは、ウイスキー製造廃液の水質やその処理に必要な設備に関するノウハウを持っていました。そして、第2蒸留所の将来的な排水量も考慮した上での排水処理設備だけでなく、排水処理と同時に発生する廃棄物を低コストで処理する仕組みについても提案してくれました。単に第1蒸留所に設備を導入するからというだけでなく、同業他社での実績に基づいた提案は、十分に納得できる内容でとても頼もしかったですね。
環境への意識がより良いウイスキー造りにつながる
ドリコは、導入後の保守サービスもしっかりしているので、大変助かっています。点検も週1回、丁寧に実施してくれますし、何か不具合が起こったときも迅速に対応してくれるのはありがたいですね。処理前の排水と浄化後の水を実際に見せてもらったこともあり、ドリコの設備を導入して、環境に対する意識は以前よりはるかに高まりました。
近年、国内には次々と新しい蒸留所がつくられています。私もそうだったのですが、造ることにばかり集中して、排水や廃棄物の処理のことまで考えていないことが多い。しかし、ウイスキー造りでは、それを念頭に置いていないと生産量が増えるにつれて処理費用が大きくなり、いずれ壁にぶつかります。小規模なら排水基準はそれほど厳しいものではありませんが、増産しようとして排水量が一定量を超えると格段に厳しくなるんです。
秩父は私の故郷であり、イチローズモルトの風味は、秩父の自然が育ててくれます。ですから、風光明媚な秩父の環境を守ることも、我々の責務です。現在、一人でも多くの方にイチローズモルトをお届けできるように、製造体制を強化しています。ドリコは、それを支えてくれる縁の下の力持ち。ドリコの設備があるからこそ、我々は排水処理を気にせず、ウイスキー造りに専念することができるのです。